手をかけすぎず素材の味を活かしてこそ、その滋味深さが際立ってくる。秋の味覚はそんな表現が似合う。 伊豆高原は相模湾を見下ろす溶岩台地。複雑な地形と黒潮の影響を受けて多様な海の生き物が生息することは知られている。海底には海藻が群生する海中林があり餌場になっているのだ。秋が深まるほど魚にも期待が膨らむ。

お造りは、地魚3種。金目鯛、鰆、鰹
秋の鰹「戻りガツオ」「トロ鰹」とも呼ばれ脂がのって濃厚な旨味みが感じられる。
初鰹よりも戻り鰹の方が好みという方もいる。
豊かな脂と上品な風味が楽しめる旬の魚、鰆。「魚」に「春」と書くので春の魚のような気もする。産卵に備えて豊富な栄養を蓄える秋から冬にかけて、身が最もおいしくなる。上品な脂の旨みは、トロのようなとろける舌触りと、上質な甘み、もちっとした食感。青魚特有のくさみは少ない。冷酒を合わせたくなる。
寒さが増すにつれて、金目鯛は上質な脂を蓄える。金目鯛独特の身の柔らかさがとろけるような食感を生み出している。白身魚でありながらも豊かな旨味。淡白でありながら、脂がのっている。コクのある深い旨味。このバランスが絶妙。伊豆といえば金目鯛。秋から冬にかけて味わいたい伊豆の味覚。

海老真薯に銀餡がかかった上品な逸品。海老の甘味がぎゅっと凝縮され、繊細で深みのある味わい。海老独特の香りと香ばしさが口の中に広がる。ふんわりとした真薯の舌触りが滑らか。

丸茄子と平茸の素味噌焼きは和風グラタンの様とも表現できる。山の幸として木の子も代表的な秋の味覚だろう。木の子はそれぞれに違う香りを持ち、その食感も様々。秋の味覚には木の子の個性を味わう料理も楽しみの一つだ。

平茸は「オイスター・マッシュルーム」とも呼ばれるほど風味が良く、シメジに似た味わいがする。
南瓜の擦り流し。和風ポタージュとも言える擦り流しは滋味深い。上質の出汁と素材の摺りつぶしで乳製品は使わないため、非常にシンプルで素材の味が引き立つ汁物。なめらかな口当たり。素材を活かす繊細な日本料理のひとつと言える。温かな摺流しは身体の中から温めてくれる。ほっとする味わい。

秋の日本料理は素材が持つ独特な香りや風味を活かした繊細なものが多い。料理人の技術もさることながら、素材そのものの良さを味わって味の違いを見極めるには、味わう方も敏感な感性を求められるのではないか。季節の風情を演出した一皿一皿は目にも楽しく、料理人の粋が凝った料理がまた、魅力。





























