寒月のオリオンと冬の饗膳

真冬の空の星座にはオリオン座がひときわ立派に輝く。神話の狩人オリオンの力強い姿を形どる星座は、誰でもたやすく見つけることができると思う。最近、そのオリオンの右肩、ペテルギウスの輝きについてニュースになったりしている。星にも寿命があるのだとか。

ギリシア神話によれば、太陽神アポロンの姉妹、月の女神アルテミスがオリオンに想いを寄せて恋仲になるが、純潔神でもあるアルテミスには恋愛が許されなかったことから、やがてアルテミスの矢に射られオリオンは星座になったそう。
せつなくも幻想的に冴えわたる寒凪の月、アルテミス。



八寸 赤蕪の椿作り、車海老と鰯の手綱寿司、蛤の柚味噌焼き、串三種、鮟肝ぽん酢水晶掛け

初春のおめでたさと季節の味を目でも舌でも味わうことのできる1月の八寸。赤蕪で寒椿を咲かせ、蛤で春を。



純米生酒 「賀儀屋SEIRYO ORION
まろやかで優しい純米酒。肴に合わせたお酒には話も弾むというもの。



鰆のお造り



駿河軍鶏の治部煮



焼き物 橙釜盛り
雲子のとろっとしたクリーミーさが甘味噌と相まってなんとも言えない美味しさ。身が厚いアオリ烏賊と長芋の歯ごたえ。



いくらと芹の混ぜ御飯
何杯でもお代わりしくなる。と相方の大のお気に入りに。



さてさて、ちらほら咲き始めた夜桜でも観ましょうか。今宵のお部屋は白翁

爪弾く三味線、小唄流れる緑陰亭

暖かな日差しに誘われて森の散策に。
冬の森は耳で楽しめるのだそう。足下に敷き詰められた落ち葉、カサカサ、コソコソ。地面の柔らかさを感じる落ち葉踏みは靴の底から大地の優しさが伝わるよう。



風に吹かれてさざめく森の木々。さらさら、さわさわ。 枝の間から見える青空。野鳥の囀りながら飛んでいく。伊豆は暖かいから、渡り鳥の越冬かしら。



今年は暖冬と言われ、河津桜も蕾がほころんで、ちらほらと可愛らしい花を咲かせている。合間からかすかに三味線の音。チントンシャン、チントンテン。小唄のお稽古。東京からお師匠さんが見えて毎月お稽古があると聞いていたから、今日はちょっと見学させていただこうか。



音に誘われて森の園からうさぎ棟を抜ける。見晴らし橋を渡って森の小径へ。明日はおさらい会があるそうで、仕上げのお稽古なのだそう。


小唄は江戸時代の流行歌

風雅な三味線の音色とゆったりとした曲調ばかりかと思ったら、そうではないのです。お稽古の合間にお師匠さんに伺ってみる。



春日とよ浜栄実 先生


「江戸小唄」は清元お葉が創始と言われ、江戸時代末期から明治、大正、昭和と発展した三味線音楽。邦楽は耳慣れないから敷居が高いと感じてしまうけれど、琴や三味線の音が普段から普通に聞こえてきた時代には、流行りの歌を三味線を伴奏に口ずさむ感じだった。と春日とよ浜栄実 先生。



端唄のテンポを早くして、短く、すっきりと粋な味わいにしたのが「江戸小唄」。花柳界の御座敷という特殊な世界で成長した小唄は、当時、四畳半のお座敷での演奏が多く、唄一人、三味線一人の一挺一枚。



三味線は撥を使わず爪弾き。柔らかく味のある音色で演奏します。唄も心に思ったことや感じていること、季節の様を独り言を呟くように唄う、粋で垢抜けた爽やかな文句を軽快な邦楽です。「短さ」と「胸に秘めた想いをあからさまに出さない」ところが好き。と仰った。


年初恒例のおさらい会

毎年1月には日頃のお稽古の成果発表を兼ねた演奏会が花吹雪で開かれます。お食事どころ「緑陰亭」がこんな風にコンサート会場に変身。




お弟子さんたちは着物を着つけて、リハーサルにも余念がありません。演奏の途中でも、「やりなおし」お師匠さんから厳しいお言葉も。芸の道は楽しくもあり、厳しくもありですね。




お稽古は毎月、ここ花吹雪で行われます。
お弟子さんのお一人が「東京で暮らしていましたが、一線を退き伊豆へ。まさか、伊豆高原で春日流の第一人者、春日とよ浜栄実 先生にお稽古をつけていただけるとは。奇跡です」お稽古にも熱が入ります。
毎月のお稽古の様子

和風オーベルジュで過ごす年初め

城ヶ崎は風もなく温かな2020年のお正月。豊かな時の流れに感謝しつつ迎えた新年。今年もどうぞよろしくお願いしますと感謝の意を込めて、陽が射し仕込んできた森を眺める。

クラブハウスでの遅めの朝食は「おせち」

元旦から3日までのみの特別料理として朝は「お屠蘇」と「おせち」。これを目当てに年明けはここに決めたと言ってもいい。和風オーベルジュと表現したくなる丹精込められた品々。

朱塗りの器に盛られた料理はひとつひとつ手をかけて仕上げられたのが分かる。味わいながら、いつもに増してゆっくりと流れゆく時の流れとともに楽しむ。
「おせち」は季節の変わり目の意味だそう。神様に収穫を感謝する風習「節供」が起源だと言う「おせち」にはその一品一品に意味があり、新年を祝いながら頂く。



御節料理はすでに平安時代にも

平安時代、暦の上で節目にあたる日を「節会」(せちえ)と言って神様にお供えをして宮中で宴を催したのが始まり。節会のお料理を「御節共」(おせちく)と呼んでいた。

季節の節目である「元旦」に海の幸、山の幸を豊富に盛り込んだ「御節」の語源となったということ。これが、江戸時代になって庶民に受け入れられて行き日本の習慣となった。



「御節料理」はかまどの神様を休めるために作り置き料理が中心。家の繁栄を願って縁起物が用いられる。

重箱に詰めれば幸が重なる?

保存に便利だけでなく、重箱には素敵な意味が込められていて「めでたさ」が重なる、海・山の幸が重なることで「幸」が重なる、「福」が重なるとして重箱に詰めたという謂れ。縁起を担ぎ、5種・7種・9種の吉数で詰め、関西、関東、地方それぞれの違いはあるようだが、詰める料理も重ごとに決まっているのだそう。



壱の重:1番上になる壱の重には、祝い肴
・数の子:子孫繁栄
・田作り:「五万米」(ごまめ)とも言い、豊作祈願
・ごぼう:根を張り代々続く
・紅白かまぼこ:半円形で日の出を表す
・伊達巻:巻物は書物を表し知識・文化の向上を願う
・昆布巻:「喜ぶ」の意
・栗金団:蓄財・金運



弍の重:縁起のいい海の幸
・鰤:成長するに従って名前が変わる出世魚
・鯛:「めでたい」魚として祝膳に用いられる魚
・海老:長寿を願って、腰が曲がるまで



参の重:家族円満を願い、山の幸のお煮しめ
・蓮根:将来の見通しがきくように
・里芋、くわい:子孫繁栄を願って
・ごぼう:根を深く張って家系が代々続くよう



与の重:酢の物
・紅白なます:祝いの水引
五の重:福を詰める場所として空にしておく


▪︎祝い箸・両口箸・家内喜箸

末広がりの八寸と決まっている「祝い箸」は、箸の両端が細くなっていることから「両口箸」、祝いの席で箸が折れるのを嫌って丈夫な「柳」で作ったところから「家内喜箸」(やなぎばし)とも呼ばれるのだそう。両端が細くなっているのは、片方が神様、片方は人が使うとして神様と食事を共にするという意味で祝いの席で使う。



あえて呼びたい、和風オーベルジュ

ホテルの「おせち」を頼むことはあっても、最近では家庭で「おせち」を楽しむことも少なくなってきたのではないだろうかと思う。
実家の母は元気な頃、大晦日は朝から台所で仁王立ちして監督。祖母から伝わる「おせち」の煮物を朝から煮付けをするのは私。たけのこから始まって、最後は椎茸をツヤツヤに煮上げるのだが、1日仕事となる。夕方にはフラフラになったのを思い出す。

今年は「おせち」付の宿で過ごす新年はどうか。と相方に持ちかけて花吹雪で過ごすお正月となった。お部屋は日本の色棟の「赤」。一言で「赤」と言っても赤系の日本伝統色は96色あるのだとか。平安時代は高貴な方しか身につけることのできない特別色でもあったそう。




年賀状の返事など書きながら過ごす、なんとも優雅に始まった2020年の新年。今年も良い年にしたいもの。手をかけた季節料理も、掛け流しの7つの家族風呂も、お部屋もどれがメインでも満足のゆく別荘宿。“泊まらずに料理だけ堪能して帰る”こともできるのだから、伊豆高原の和風オーベルジュと呼んでも良いのではないかしら…。