冬の風物詩 突きん棒漁で獲れた伊東のナマコ

伊東の海に残る伝統的な漁法に「ナマコの突きん棒漁」がある。晩秋から春先にかけて伊東市の沿岸では、小船に乗った漁師が箱メガネで海底を覗き込みながら3m〜6mもの長いモリ、「突きん棒」でナマコや貝を獲っている。


海が澄んでいて底まで見えなくては獲物を見つけることはできない。また、小舟を浮かせて船上から海底を覗き込むため、小舟が流されるような日は漁に出られない。風がなく、波もない時を選んで船を出すためシーズンに数えるほどしか漁ができないという。海に潜って貝類を獲る漁は夏場のみ解禁。そのほかのシーズンは、潜水漁は禁漁となっているそうで伝統的な「突きん棒漁」が今でも行われている。



今夜の献立が楽しみである。磯自慢搾りたて生源酒と伊東港の魚、地野菜。伊豆高原は本当に豊かなところだ。



先付:雲子の湯葉餡掛け
一年で最も寒いこの時期が旬の雲子。温かい湯葉餡掛けの突き出し



八寸:金目鯛の昆布〆手毬寿司、伊東産突きん棒漁で漁れたなまこのみぞれ和え、地物野生蕗の薹と鮑の白和え、菜の花の芥子和え・黄身そぼろ、燻鮭の砧巻き、干し柿とクリームチーズの博多押し


華やかな朱塗りの梅皿に彩られた八寸。旨み豊かな伊東のなまこを柑橘系の優しいみぞれ和えでいただく。こっくりと濃厚な白和えは対照的。野生の蕗の薹は独特の香りとほろ苦さに春を感じる。



御造:アオリイカ、本鮪、平政
身が厚く、噛み締めるほどに旨みと甘味が増す地アオリイカは絶品。伊東沖の天然鮪。歯ごたえがあり、淡白で上品な平政。



蓋物:合鴨のひき肉入り里芋饅頭
道明寺粉を炒って粉末にし、まぶして揚げた里芋まんじゅうに引いた出汁のあんかけ。いつもながら手が混んでいると思う。一つ一つが独立していながらも調和したお気に入りの一品。



中猪口:自家栽培甘夏と天城山葵のソルベ




焼物:鰆の西京漬の奉書焼き
甘めの味噌でより旨味が乗った鰆。日本酒の肴に最高。



御飯・留椀・香の物:駿河湾産桜海老の炊き込み、無農薬雪の下法蓮草の摺り流し、胡瓜の黒文字漬け、柚香大根、汐昆布 海のルビーと呼ばれる「駿河湾の桜海老」の炊き込み。芳醇な香りと海老の甘味がする贅沢な御飯。



料理屋菓子:林檎の浮島
まるでカステラのような浮島。餡を主にした和の蒸し菓子。


おすすめの地酒、「磯自慢搾りたて生原酒」は水を一切加えず、加熱しないため飲みごたえのある味わいで、搾りたてのフレッシュ感とフルーティさを感じる日本酒だった。



宿泊棟まで敷地内をそぞろ歩き。ちょっぴり冷たい夜風が心地よい。森は高い木々に囲まれていて静かだ。明日は天気も良さそう。桜の小枝で蜜を啄むメジロに会えるかもしれない。

冬限定!人気No1、和のスィーツ「ぜんざい」

まだまだ花冷えのする季節は、温かい日本の甘味が恋しくなる。花吹雪の茶店、雲上亭・緑蔭亭では、なんと言ってもほっこりとした甘さの「ぜんざい」が一番人気だと言う。

「ぜんざい」「おしるこ」はどう違う

いずれも小豆を砂糖で煮たもので材料は同じ。では、呼び名の違いだけなのかというとそうでもないようだ。

関西と関東とではその違いに差があるという説

関西では「ぜんざい」は粒餡仕込み、「おしるこ」は濾し餡を使ったお汁のある甘味のことをいい、関東では汁気のあるものを「おしるこ(お汁粉)」と言い、こし餡で作ったものを「御前汁粉」、粒餡で作ったものを「田舎汁粉」などと言うそうだ。「ぜんざい」は焼き餅や白玉に餡子を添えた汁気のない甘味を指す。


「ぜんざい」の名前の由来もさまざま

「ぜんざい」発祥の地は島根県の出雲と言われている。その理由は日本古来の八百万の神様が出雲大社に集まる神在月(旧暦10月)の神事で振る舞われていたのが「神在餅(じんざいもち)」で、これが変化して「ぜんざい」になったと言う説。
また、はじめて「ぜんざい」を食べた和尚さんがあまりの美味しさに「善き哉」と言ったとか。それが「善哉(ぜんざい)」となったという説。
あるいは、正月に鏡割りした餅を焼いて小豆汁にして食べたことから、神前に備えた餅はそもそも「善哉」であることから「ぜんざい」となったと言う説。
いずれにしても小豆を甘く煮たもので美味しく、有難い甘味であることは間違いないようだ。感謝して味わいたい。

「おしるこ」の名前の由来は江戸時代

江戸時代の酒のつまみ「すすり団子」が起源と言われている。甘味ではなく塩で味つけた小豆汁で米の団子を煮たものだそうで、上から砂糖をかけて食べるものだったとか。日本酒のつまみに「大福」と聞いて驚きを隠せないが、意外と相性が良く歴史も長い日本酒の嗜み方なのかもしれない。

早咲きの桜が咲く2月も不動の人気、花吹雪の「ぜんざい」

花吹雪のスタッフが茶店で人気はダントツで温かい「ぜんざい」だというが、中には冬でも冷たい「冷やしクリームせんざい」がいいという方もいるのだそう。こんがりと香ばしい焼き餅は小腹がいた時に丁度いい。



抹茶、ほうじ茶、緑茶、コーヒーとセットで頂くことができる。大きな抹茶茶碗で頂くとより味わい深い気がしてくる。

自宅で「ぜんざい」を美味しく作れるのか

「ぜんざい」の美味しさは、なんと言っても小豆を上手に煮ることができるかどうかにかかっているのではないか。これはなかなかハードルが高い。
まずは渋抜き。小豆は浸水がいらないのですぐに調理できるが、アクやえぐみを取りまろやかで美味しい煮小豆を作りたいものだ。 料理人のように鍋でじっくり小豆と対決するのはちょっと自信がない。炊飯器のお粥モードがいいと聞き試してみたいと思う。さて、出来栄えはいかに。



関連記事



甘味処 花吹雪の料理屋菓子


「あんみつ」に誘われて、くぐる暖簾。雲上亭と緑陰亭。

金目鯛の最高級ブランド・伊東港地金目

本州では一番早い開花の河津桜。今年は1月中旬より開花するという早さである。例年では2月上旬の開花、約1ヶ月で見ごろとなるそうだ。伊豆高原の宿で早い春の訪れと冬の献立を楽しむ夕餉となった。



先付:炙り帆立擦りおろし林檎酢、白髪セロリ

旨味がぎゅっと詰まった帆立の炙りは生よりも甘味が乗って更に美味しい。香ばしさと風味が口いっぱいに広がる。おろし林檎酢で後味もすっきり。


目でも楽しめる日本の料理は小さな器の中に季節の変わり目を上手に盛り込んでいると、いつも思う。1月は新年の気分が抜けないことも残しながらの冬模様、春の香りが夢や希望を運んでくる様を愛でながら、美味しいお酒と一緒に一品ずつ味わっていく。




八寸:菜花の白和え・梅花人参、和三盆糖仕立ての栗きんとん、燻鮭の椿寿司、鮟肝のおろし2杯酢、海老の松風、千社唐の西京漬け、丹波黒豆の氷砂糖煮


冬の伊豆、魚といえば金目鯛。中でも伊東港に上がる地金目はブランドとなっている。伊豆大島と稲取の間に生息する金目鯛は丸みをおびてまるまると太り、こってりと脂がのっている。焼き霜造りは皮の香ばしさも感じられ、特性のぽん酢水晶寄せと一緒にいただく。



御造:金目鯛の焼き霜造り、太刀魚、平政



蓋物:地物海老芋の揚げ饅頭・銀杏入り・鱶鰭の姿煮・鼈甲餡掛け・結び紅白・松葉柚子・春菊


静岡で生まれた苺「紅ほっぺ」は、甘味もありながら程よい酸味も持ち合わせた大粒の苺。 コクのある甘さを持ち実の柔らかい「章姫」と、甘味と穏やかな酸味があり、硬く真っ赤な果実の「さちのか」を交配させて誕生したそうだ。いいとこ取りの「紅ほっぺ」を贅沢にも天城山葵と合わせてソルベにした中猪口。



中猪口:伊豆の苺「紅ほっぺ」と天城山葵のソルベ


伊東港であがった地元の脂が乗った寒鰤。伊東の鰤は桜の季節に獲れるものを「桜鰤」と呼び、旬の地魚として珍重されているそう。早咲きの桜の先初めの今は、走りといったところか。堂々とメインとして引けを取らないこっくりとした味わい。



焼物:寒鰤の味噌幽庵焼き・金柑・牛蒡とセリの胡麻和え・おろし



御飯:煮穴子の炊き込み 留椀:無農薬雪の下法蓮草の擦り流し



料理屋菓子:自家製和三盆わらび餅


今日の夕餉は椅子席にリニューアルされた花座敷に席が用意されていた。森の園の宿泊棟を見下ろすように建つ花座敷。窓からの景色は、雄大な森の中にあることを実感できる。



部屋に戻る間に湯に寄っていこう。鄙の湯からはちょうど河津桜が見えるから。


伊豆高原から贈る旧友への葉書

日常の喧騒や雑事から解放された旅先の宿。何もせずにゆったり寛ぐ豊かな時間で1枚の葉書を書くのはいかがか。湯上がりに浴衣、袴、丹前という姿が花吹雪での部屋着。なんとなく「書く」という気にさせる気もする。



ご無沙汰してしまっている人への便りには、久しく会えないでいる想いや、相手の様子を尋ねる言葉、近況のニュースなどを盛り込んできちんと書きたいと思うほど、日々の雑事に追われてしまい筆が進まないのではないか。


最近はSNSなどの活用により直筆で文字を書いて郵便で送る。ということ自体が激減している。シニア層では終活の一環で「年賀状じまい」などという方も増えたとされているなかで、あえて旧友への1枚の葉書を書いてみたいと思う。



慌ただしい年末を過ごすことで年賀状の準備がままならなかった時でも、相手は私を忘れずに1枚の葉書を贈ってくれた。遠方に住んでいることもあり、お互いに忙しくもあり、しばらく会っていないが、その筆蹟を見ただけで彼女の顔が浮かぶ。楽しく会食したことや一緒に行った旅行などが思い出される。


旅行先から絵葉書が送られてきた経験をお持ちと思う。これもまた嬉しいものではないか。その場所へ行ったことがあってもなかったとしても、旅先から届いた葉書には旅での出来事や驚き、感動などが記されていたりして、受け取るほうはあれこれイメージしながら読むものだ。送り手の性格や表情なども想像しながら読むメッセージは楽しく豊かな時間だ。



佳子さま

お正月気分も抜け、寒さが一層厳しく感じられます。しばらく会えていませんがお元気でお過ごしですか。私は相変わらず慌ただしい年末年始を過ごし、やっと伊豆高原の宿で体を休めているところです。掛け流しの貸切風呂が身体を癒してくれます。ここは暖かくて、もう桜が咲いているのですよ。一緒に指宿へ行きましたね。懐かしいなあ。またお会いする日を心待ちにしています。

城ヶ崎温泉 花吹雪にて



森のうさぎ棟・勘助うさぎ

和ハーブ・丁子(クローブ)で温活

寒い夜は、ホットラムがおすすめ。ラム酒をお湯で割り、丁子を一粒。レモンを添えていただく。スモーキーな甘いバニラの香りが立ち、身体の中から温まる。シナモンとの相性もいいので好みでパウダーを振るのもいい。



丁子はクローブと言う方が耳慣れているかもしれないが、釘のようなその形から日本では「丁子」と呼ばれる。原産地はインドネシアのモルッカ諸島で、漢方薬としても利用された。日本では5世紀から6世紀ころ、飛鳥〜奈良時代には使われていたという。江戸時代以前から日本各地で用いられてきた有用植物を「和ハーブ」と定義づけられているそうだから、丁子もれっきとした和ハーブである。


奈良・平安時代から愛される丁子の香り

正倉院には帳外薬物として実物が保存されているほか、源氏物語には「丁子染め」という表現がされている。蜻蛉の巻の匂宮の衣装についての記載に、丁子を煮出して染めた丁子色の薄衣の濃厚な甘くスパイシーな香りが感じよいと書いている。
丁子染めは、黄身の深い褐色の色とほのかに残る香りを「香染め」と呼び、貴族に好まれたようだ。



江戸時代になると丁子風呂(ちょうじぶろ)としても使われた。「風呂」と言っても丁子のお湯に浸かるのではなく、香炉に似た容器で丁子と水を入れた器を温め煎じて香りを出すもの。銅、鉄、陶磁器製のものがあり、今で言うアロマディフューザー。香りが室内に漂い室内の防臭・防虫の他、吊るしてある衣類に香りを移したりして用いたそうだ。発祥は定かではないが琉球王朝時代の儀式で使用され、献上品としても使われて広まったようだ。藩主、大奥、貴族、使用した人も場所も様々。



(画像はイメージです)


丁子はフトモモ科の樹木、チョウジノキの花蕾を指す。花が開く直前に摘み取り乾燥させる。主に香辛料として知られるが、精油も採れて薬用にも用いられる。歯痛、健胃、消臭、鎮静、防腐などの効能、体を温める作用があり、薬酒として飲むと体が温まり血行・血流を促進する。


戦国武将も愛用した深く濃厚で渋い香り

鎌倉時代ころから武士の間でも身だしなみを整えたり、教養のために香りを用いたと言う。香りだけでなく防虫や防臭などの効能も珍重され、高価なお香は権力の象徴にもなっていた。また戦の前には香を焚き髪や甲冑、兜に香りを焚き染めていた。強い香りで魔を祓う意味や集中力を高めたり、戦いの前の緊張をほぐして心を鎮めたりする効果を期待したものと思われる。戦国武士のアロマテラピーと言ったところか。武士のアロマだけでなく、意外な使われ方として日本刀の手入れに錆止めとして「丁子油」が使われたそうだ。



12月の風物詩クリスマスポマンダー

ポマンダーとは「匂い玉」のこと。13世紀中世のヨーロッパで装飾品として、また病気の予防として聖職者、医者、高官、高貴な身分の人が首やベルト、ガードルに吊り下げて携帯した。16世紀に入るとペストが流行したこともあり、ポマンダーはヨーロッパで最も愛用されたと言われている。自分の周りを強い香りでバリアーする意味で、りんご、オレンジ、レモンなどにクローブを刺して乾燥させたものを部屋に吊るすことで、魔除けと信じられた。欧米では今でも、幸運を呼ぶラッキーチャームとしてクリスマスから新年にかけて飾ったり、プレゼントしたりする習慣があると言う。



丁子染めの足袋で足元もほかほか
平安貴族に好まれた丁子染めだが、花吹雪のお部屋には浴衣、くつろぎ着と一緒に「丁子染めの足袋」が用意してある。



渋い黄褐色の足袋を湯上がりに履くと、いつまでもほかほかと温かい。足袋ソックスは疲れた足を優しく包み、足の先が分かれていることで様々な健康増進効果もあるそうだ。



モーニングチャイで素敵な1日のスタートを

最後に自宅でも簡単にできる「チャイ」のご紹介。朝食を取らない人も寒い朝を1杯のチャイでスタートしてはいかがだろうか。冷え性の方には体を温めてくれるスパイスはおすすめしたい。紅茶のティバッグ1つにクローブ、ジンジャー、カルダモン、シナモン、スターアニス、コリアンダーなど適宜入れ、水を100CC加えて香りが出るまで弱火で煮出す。牛乳を200CC入れて沸騰しないようにかき混ぜながら温める。茶漉しで濾してカップ2杯分のチャイが出来上がり。蜂蜜を小さじ半分ほど入れて温かいうちに召し上がれ。牛乳を豆乳にすればソイチャイになる。スパイスの調合が面倒な方には市販のチャイマサラなどブレンドディてあるミックススパイスと好きな紅茶でも美味しくチャイブレイクが楽しめる。


伊豆高原の暖かい冬

年末押し迫った暮れだというのに、欝金色や真朱に染まった花吹雪の「森の園」。12月中旬から今年1番の大寒波が東海から北日本かけて到来した後、クリスマス大寒波が各地に大雪を降らせているニュースというのはどこか遠い国の話のよう。伊豆高原のある伊東市は真夏の平均気温が26度、真冬が7度。冬の最低気温が2度以下になることはほとんどないという。


冬でも温暖な伊豆半島の沿岸は、黒潮の暖流に囲まれて最低気温が高く、寒波ニュースの最中にも零度にはならない。伊豆スカイラインや箱根スカイライン、天城山などの峠を早朝通らなければ路面の凍結なども少ない。



宿泊棟をつなぐ見晴らし橋も紅葉真っ盛り。「朝、雪かきがないなんて、憧れる」と雪国の友人が言う。伊豆高原に信州や東北からの移住が多いというのも頷ける。




縁から湯が溢れ出す100%掛け流し

暖かいと言っても冬は冬。ゆっくりと掛け流し温泉に浸かって疲れを癒し、温まりたい。花吹雪の7つの貸切風呂は100%掛け流し。100%掛け流し温泉とは、加水、加温なしで常に新しい温泉が湯船に注ぎ込まれ、お湯は戻さない。湯量が豊かで縁から湯が溢れ出している。特に足元から湧き出るお湯は地球そのものの力を感じるよう。戸外が冷えるこの季節、露天風呂は湯加減もちょうど良く森を眺めながら浸かる湯は自然との一体感を味わえて、格別。極楽、極楽。



紅葉した葉は葉緑体が減り光合成が行われなくなりやがて散ってゆく。伊豆高原は常緑照葉樹も多く、冬でも深緑の葉が茂る樹林に覆われていて、部屋の窓からは豊かな緑を楽しむことができる。そして一月も終わりになればもう桜。部屋の窓からも寒桜の花見。




(写真は前年の1月末のもの)



冬の懐石料理でお酒を楽しむ


先付:炙り帆立と摺りおろし林檎酢
旨味がぎゅっと凝縮したような炙り帆立に爽やかな甘味とフルーティな淡い酸味の摺りおろし林檎がマリネのよう。



八寸:菜花の白和え梅花人参、和三盆仕立ての栗きんとん、燻鮭の椿寿司、自家製唐墨梅花大根、海老の松風、千社唐の西京漬、黒豆
料理長は白和えが得意。白い衣を纏う菜の花はまだ冬に差し掛からない暖かな伊豆高原から、やがて来る「春」を思い慕うよう。



目で楽しめる日本の料理で季節を更に堪能。ピンと張ったような夜の空気に、澄んだ夜空。浴衣に丹前姿で食事処からお部屋へ、貸切風呂へ。星の数がこんなにもあったのかと驚き歩くほろ酔いのうさぎ谷。暖かい伊豆高原で春待ちステイはいかが。

<

早咲き桜の伊豆高原へ、ぶらりひとり旅

「ぶらりひとり旅」なんとも魅力的な響きではないか。自粛や制限のある生活が2年続く中で、「ひとり旅」を楽しむ人が増えていると聞く。誰に合わせることなく、気ままな自分時間で過ごす旅。今やひとり旅は寂しいものではなく、一人になれる大切なひとときになった。


気疲れしないおひとり様の旅

某旅行社のアンケートによると一人旅経験者は60%、男女の比率は半々。一人旅経験者の中心世代は男女とも50代。旅の目的はリフレッシュと趣味の満喫なのだそう。
行き先は、景色が良く温泉があって、食べ物が美味しいところという結果。



探してみると一人旅の本もずいぶん出ている。ガイドブックではなく「鉄道一人旅」とか「癒し旅」など楽しみ方を紹介したものが目に付く。ひとり旅はどうやら「旅のテーマ」を決めるのが楽しむコツのひとつのようだ。


旅のテーマを思い切って「ひとり脱IT旅」なんていうのもいいかもしれない。ワーケーションという働き方が話題になっている中ではあるけれど、あえての脱ITを計画してみるのはどうだろう。パソコンやタブレットと一日中にらめっこ。スマートホンはもはや一時も手放せないという日常に、眼も脳もココロも疲弊しているのでは。一切のIT機器から解放され、五感で自然を感じるプチ旅行。



「ひとりアート旅」なんていうのもいい。何かを創り出すことに没頭すると、無心になれると良く言われる。何もかもから解放されて創作物と向き合う時間。手仕事のぬくもり。いままで会ったことのない自分に出えるのかもしれない。芸術作品を見て歩くだけのひとり旅も魅力的ではないか。気になった作品の前でじっと感性を響き合わせてみる。誰にも邪魔されずに鑑賞する「ひとりアート旅」はセンスを磨くプチ旅行。かすかな春の息吹を感じたら、そんな「ひとり旅」を計画してみよう。



ふた足早い開花。薄紅色の一番花


けして暖かい冬ではないのに、今年は桜の開花が例年より早いそう。まだ1月半ばだというのに寒緋桜はもう満開に近いところもある。花吹雪の入り口の桜はまだ硬い蕾だけれど、敷地内の鄙の湯から見える河津桜、うさぎ棟・勘助うさぎの2階の小部屋から見える河津桜も蕾をほころばせている。日毎にひとつ、またひとつ優美な姿で春の訪れを告げる。



敷地内に7つある源泉掛け流しの温泉は全て貸切り。マスクなしのお風呂時間も安心してゆっくり過ごせる。長湯もひとり旅の醍醐味。4000坪の森に囲まれてココロも体も澄んだ空気に溶け込んでいくよう。 



早春の出会いもの。伊豆の地魚、天城の恵み

旬の食材を活かした献立、「長七」は、まるでオーケストラのようだといつも思う。同じ季節に美味しい食材の個性を活かして組み合わせ、創り上げた懐石膳。祝い酒「開運」と一緒にいただく。



先付:炙り帆立と摺りおろし林檎酢



八寸:菜の花の白和え 梅花人参、和三盆仕立ての栗きんとん、燻鮭の椿寿司、自家製唐墨 梅花大根、海老の松風、千社唐の西京漬け 黒豆



御造:金目鯛、ヒラマサ、ひらめ 伊豆山葵とよく合う



蓋物:契約農家直送里芋の饅頭 銀杏入り、鱶鰭春菊餡かけ 結び紅白 松葉柚子



中猪口:伊豆の苺「紅ほっぺ」と天城山葵のソルベ



焼物:近海寒鰆の味噌幽庵焼き 金柑、芹の黒胡麻和え、おろし



御飯:煮穴子の炊き込み、生姜、針大葉、
留椀:法蓮草の摺り流し 揚げ栗麩 黒胡椒
香の物:胡瓜の黒文字漬け、柚香大根、汐吹き昆布



料理屋菓子:自家製わらび餅


ちょっとそこまで。そんな気軽なひとり旅。ひとつひとつのシーンが心に残る、思い入れ深いひとり旅。大切な人がもっと大切に思える、旅がくれた宝物。




寒月のオリオンと冬の饗膳

真冬の空の星座にはオリオン座がひときわ立派に輝く。神話の狩人オリオンの力強い姿を形どる星座は、誰でもたやすく見つけることができると思う。最近、そのオリオンの右肩、ペテルギウスの輝きについてニュースになったりしている。星にも寿命があるのだとか。

ギリシア神話によれば、太陽神アポロンの姉妹、月の女神アルテミスがオリオンに想いを寄せて恋仲になるが、純潔神でもあるアルテミスには恋愛が許されなかったことから、やがてアルテミスの矢に射られオリオンは星座になったそう。
せつなくも幻想的に冴えわたる寒凪の月、アルテミス。



八寸 赤蕪の椿作り、車海老と鰯の手綱寿司、蛤の柚味噌焼き、串三種、鮟肝ぽん酢水晶掛け

初春のおめでたさと季節の味を目でも舌でも味わうことのできる1月の八寸。赤蕪で寒椿を咲かせ、蛤で春を。



純米生酒 「賀儀屋SEIRYO ORION
まろやかで優しい純米酒。肴に合わせたお酒には話も弾むというもの。



鰆のお造り



駿河軍鶏の治部煮



焼き物 橙釜盛り
雲子のとろっとしたクリーミーさが甘味噌と相まってなんとも言えない美味しさ。身が厚いアオリ烏賊と長芋の歯ごたえ。



いくらと芹の混ぜ御飯
何杯でもお代わりしくなる。と相方の大のお気に入りに。



さてさて、ちらほら咲き始めた夜桜でも観ましょうか。今宵のお部屋は白翁

爪弾く三味線、小唄流れる緑陰亭

暖かな日差しに誘われて森の散策に。
冬の森は耳で楽しめるのだそう。足下に敷き詰められた落ち葉、カサカサ、コソコソ。地面の柔らかさを感じる落ち葉踏みは靴の底から大地の優しさが伝わるよう。



風に吹かれてさざめく森の木々。さらさら、さわさわ。 枝の間から見える青空。野鳥の囀りながら飛んでいく。伊豆は暖かいから、渡り鳥の越冬かしら。



今年は暖冬と言われ、河津桜も蕾がほころんで、ちらほらと可愛らしい花を咲かせている。合間からかすかに三味線の音。チントンシャン、チントンテン。小唄のお稽古。東京からお師匠さんが見えて毎月お稽古があると聞いていたから、今日はちょっと見学させていただこうか。



音に誘われて森の園からうさぎ棟を抜ける。見晴らし橋を渡って森の小径へ。明日はおさらい会があるそうで、仕上げのお稽古なのだそう。


小唄は江戸時代の流行歌

風雅な三味線の音色とゆったりとした曲調ばかりかと思ったら、そうではないのです。お稽古の合間にお師匠さんに伺ってみる。



春日とよ浜栄実 先生


「江戸小唄」は清元お葉が創始と言われ、江戸時代末期から明治、大正、昭和と発展した三味線音楽。邦楽は耳慣れないから敷居が高いと感じてしまうけれど、琴や三味線の音が普段から普通に聞こえてきた時代には、流行りの歌を三味線を伴奏に口ずさむ感じだった。と春日とよ浜栄実 先生。



端唄のテンポを早くして、短く、すっきりと粋な味わいにしたのが「江戸小唄」。花柳界の御座敷という特殊な世界で成長した小唄は、当時、四畳半のお座敷での演奏が多く、唄一人、三味線一人の一挺一枚。



三味線は撥を使わず爪弾き。柔らかく味のある音色で演奏します。唄も心に思ったことや感じていること、季節の様を独り言を呟くように唄う、粋で垢抜けた爽やかな文句を軽快な邦楽です。「短さ」と「胸に秘めた想いをあからさまに出さない」ところが好き。と仰った。


年初恒例のおさらい会

毎年1月には日頃のお稽古の成果発表を兼ねた演奏会が花吹雪で開かれます。お食事どころ「緑陰亭」がこんな風にコンサート会場に変身。




お弟子さんたちは着物を着つけて、リハーサルにも余念がありません。演奏の途中でも、「やりなおし」お師匠さんから厳しいお言葉も。芸の道は楽しくもあり、厳しくもありですね。




お稽古は毎月、ここ花吹雪で行われます。
お弟子さんのお一人が「東京で暮らしていましたが、一線を退き伊豆へ。まさか、伊豆高原で春日流の第一人者、春日とよ浜栄実 先生にお稽古をつけていただけるとは。奇跡です」お稽古にも熱が入ります。
毎月のお稽古の様子

和風オーベルジュで過ごす年初め

城ヶ崎は風もなく温かな2020年のお正月。豊かな時の流れに感謝しつつ迎えた新年。今年もどうぞよろしくお願いしますと感謝の意を込めて、陽が射し仕込んできた森を眺める。

クラブハウスでの遅めの朝食は「おせち」

元旦から3日までのみの特別料理として朝は「お屠蘇」と「おせち」。これを目当てに年明けはここに決めたと言ってもいい。和風オーベルジュと表現したくなる丹精込められた品々。

朱塗りの器に盛られた料理はひとつひとつ手をかけて仕上げられたのが分かる。味わいながら、いつもに増してゆっくりと流れゆく時の流れとともに楽しむ。
「おせち」は季節の変わり目の意味だそう。神様に収穫を感謝する風習「節供」が起源だと言う「おせち」にはその一品一品に意味があり、新年を祝いながら頂く。



御節料理はすでに平安時代にも

平安時代、暦の上で節目にあたる日を「節会」(せちえ)と言って神様にお供えをして宮中で宴を催したのが始まり。節会のお料理を「御節共」(おせちく)と呼んでいた。

季節の節目である「元旦」に海の幸、山の幸を豊富に盛り込んだ「御節」の語源となったということ。これが、江戸時代になって庶民に受け入れられて行き日本の習慣となった。



「御節料理」はかまどの神様を休めるために作り置き料理が中心。家の繁栄を願って縁起物が用いられる。

重箱に詰めれば幸が重なる?

保存に便利だけでなく、重箱には素敵な意味が込められていて「めでたさ」が重なる、海・山の幸が重なることで「幸」が重なる、「福」が重なるとして重箱に詰めたという謂れ。縁起を担ぎ、5種・7種・9種の吉数で詰め、関西、関東、地方それぞれの違いはあるようだが、詰める料理も重ごとに決まっているのだそう。



壱の重:1番上になる壱の重には、祝い肴
・数の子:子孫繁栄
・田作り:「五万米」(ごまめ)とも言い、豊作祈願
・ごぼう:根を張り代々続く
・紅白かまぼこ:半円形で日の出を表す
・伊達巻:巻物は書物を表し知識・文化の向上を願う
・昆布巻:「喜ぶ」の意
・栗金団:蓄財・金運



弍の重:縁起のいい海の幸
・鰤:成長するに従って名前が変わる出世魚
・鯛:「めでたい」魚として祝膳に用いられる魚
・海老:長寿を願って、腰が曲がるまで



参の重:家族円満を願い、山の幸のお煮しめ
・蓮根:将来の見通しがきくように
・里芋、くわい:子孫繁栄を願って
・ごぼう:根を深く張って家系が代々続くよう



与の重:酢の物
・紅白なます:祝いの水引
五の重:福を詰める場所として空にしておく


▪︎祝い箸・両口箸・家内喜箸

末広がりの八寸と決まっている「祝い箸」は、箸の両端が細くなっていることから「両口箸」、祝いの席で箸が折れるのを嫌って丈夫な「柳」で作ったところから「家内喜箸」(やなぎばし)とも呼ばれるのだそう。両端が細くなっているのは、片方が神様、片方は人が使うとして神様と食事を共にするという意味で祝いの席で使う。



あえて呼びたい、和風オーベルジュ

ホテルの「おせち」を頼むことはあっても、最近では家庭で「おせち」を楽しむことも少なくなってきたのではないだろうかと思う。
実家の母は元気な頃、大晦日は朝から台所で仁王立ちして監督。祖母から伝わる「おせち」の煮物を朝から煮付けをするのは私。たけのこから始まって、最後は椎茸をツヤツヤに煮上げるのだが、1日仕事となる。夕方にはフラフラになったのを思い出す。

今年は「おせち」付の宿で過ごす新年はどうか。と相方に持ちかけて花吹雪で過ごすお正月となった。お部屋は日本の色棟の「赤」。一言で「赤」と言っても赤系の日本伝統色は96色あるのだとか。平安時代は高貴な方しか身につけることのできない特別色でもあったそう。




年賀状の返事など書きながら過ごす、なんとも優雅に始まった2020年の新年。今年も良い年にしたいもの。手をかけた季節料理も、掛け流しの7つの家族風呂も、お部屋もどれがメインでも満足のゆく別荘宿。“泊まらずに料理だけ堪能して帰る”こともできるのだから、伊豆高原の和風オーベルジュと呼んでも良いのではないかしら…。