柑橘系の西洋精油は、花から香りを抽出するネロリ、果実の皮から抽出するオレンジ、レモン、ベルガモットなどがポピュラーではないだろうか。
ヨーロッパの自然療法アロマセラピーでは、シトラスの爽やかな香りは気持ちを和らげ、リラックスできる効果があるとされ、コミュニケーションの活性化や食欲増進等、様々な効果が期待できるとして芳香浴などで利用されている。
アロマ業界では和精油が注目されているという。古くから親しまれている香木の精油に加え、柑橘系の精油も国内で精製されているそうだ。和精油が秘めるパワーと豊かな香りに魅せられて、積極的に和精油の開発を手掛けている、天然香水調香師の杉浦元昭先生にお話を伺うことができた。
静岡原産の太田ポンカン
静岡と言えば「富士山、お茶、みかん」と言われるほど日本三大みかんの産地でもある。温暖な静岡県は様々な柑橘類が育ち、食卓を彩るほか、贈答品としても利用されている。
静岡市清水区庵原町原産の太田ポンカンは、静岡県で生産される柑橘類のなかでも突き抜けるようなさわやか甘みとコクのある味わい。「ポンカン」ならではの独特で濃厚な甘さが魅力で、他県のものよりも収穫期が早くて12月初旬には出回る。
食べても美味しいが、ポンカンの皮から採れる精油に着目
「太田ポンカン精油は果皮から水蒸気蒸留法で採取します。香りは不安を取り除き、うつ気味になった心を高揚させて、気持ちを明るく前向きにしてくれる効果が期待できます。体のバランスを整える効果があるので、疲れやカラダのだるさを取り、熟睡を促す効果も期待されます」と杉浦先生。
なぜ、静岡県産の柑橘なのか
「静岡県の駿河湾沿岸地域は上質な柑橘を育てる環境が整っている。日本列島のほぼ中心で、世界文化遺産である「富士山」の南側に広がる海に面しているのがポイント」
①駿河湾の深さは最も深い地点で水深2,500メートル。日本一深い湾なのだが、実は世界でも有数の海底勾配が急な湾である。駿河湾の深い海には、黒潮系海洋深層水、亜寒帯系海洋深層水、太平洋海洋深層水という3つの深層水が存在していて、海水が清麗であることと、無機栄養塩類が豊富でプランクトンが増殖しやすい豊かな海であること。
②静岡県は日照時間が長い。年間2,000時間を超えるそうで、日照時間の長さでは、山梨県に次ぐ全国2位。さらに山間部を除き、ほとんど雪も降らない温暖な地域であるということ。
③山間地の斜面に比べて日光を浴びやすい海沿いの斜面。海水面に反射した太陽の光も果樹に注ぎ、盛んに光合成を行うことができるということ。海からの潮風も重要な役割を果たし、ミネラル分が豊富な土壌は柑橘類の味に深みを増し、美味しい果実が育つ。
④駿河湾の沿岸には湧水の名所が多い。富士山に降る雨や雪は年間約25億トンというから凄い。雨や雪は大地に染み込んで、濾過されながら地下水となって湧水として湧き出ている。豊かな自然を産み出し駿河湾に注ぎ込む。
太田ポンカン精油はどんな香り?
太田ポンカンの熟成した奥深い香りに魅了されたという杉浦先生は「みかんの甘い香りです。と言っても本当に濃厚なんですよね。南国を思わせるような濃厚な独特の香りがあります。オレンジ精油の香りってふわっとした甘いかおりじゃないですか。それに似た甘さと、その奥の方に樹木のような香りを持っていてオレンジよりも奥深く幅広い香りがありますね。ちょっと苦み走った、ビターオレンジの皮のような香りがします」
実際に太田ポンカンの精油の香りを嗅いでみると、ただ甘いオレンジの香りだけでなく、酸味や苦味も感じるような、甘さが鼻を抜けた後に確かに木を感じる。
太田ポンカン精油の効果は?
杉浦先生曰く「まずそのリラックス効果っていうのは非常に高いわけです。私はトリートメントなどにも使いますね。期待できる効果の主なものは3つ」
①トリートメントに使うと施術の最中に香りの良さで満足できる。
②テルピネオールという成分が多くて、抗菌作用や抗ウイルス作用っていう免疫を高めるのに非常に効果がある。
③自律 神経のバランスを整えてくれる
「成分が非常に高いのでこれが香りとして脳を刺激しますし、体内にもそのまま吸い込まれていくのでトリートメントをするとホルモン調整とかバランス調整、自律神経に非常に採用します」
トリートメントに使って大丈夫なの?
「大丈夫!この太田ポンカン精油は水蒸気蒸留法なので光毒性がないんです。柑橘系の精油は圧搾法で抽出するとどうしても光毒性があり、日光にあたると「シミ」「炎症」などのトラブルが起きてしまい肌にはつけられない。
私が開発した、太田ポンカン、はるみ、スルガ甘夏、東伊豆産のニューサマーオレンジの精油は全部水蒸気蒸留法で精製してあるんです。そのために光毒性がないのです。どれもアロマトリートメントに使えてボディに入っていけるんですよ」
太田ポンカン精油とブレンドするならどんな精油がいい?
「ズバリ!それは黒文字の精油でしょう。
黒文字精油と太田ポンカン精油をブレンドすると、太田ポンカンには柑橘の成分と深みのある木の成分があるでしょう。黒文字自体はもちろん木の成分がありますが、黒文字ってすごい複雑な香りを持っていて、実は柑橘系の香りも持ってるので調和しますね。
黒文字にはリナロールという成分がめちゃめちゃ多くて、それは花の香りです。この二つの精油をブレンドすると太田ポンカンにはない、花の香りを黒文字が補ってくれます。柑橘、花、木この3つが揃った香りがバランスよく調和して温かみがあってリラックスできる香りが生まれます」
太田ポンカン精油と黒文字精油とブレンドすることで、さらに安眠効果があると言う。
黒文字の香りと太田ポンカンの香りの相乗効果
「実際にブレンドしましたら実際にすごくいいんです。私のオリジナルブレンドに「駿河」という香りがあります。静岡県の柑橘系の精油と黒文字、ヤブニッケイなどをブレンドしたものですが、静岡ガンセンターで患者さんたちの睡眠のエビデンスを取ったんです。がんセンターの桜井和俊先生が黒文字の香りと柑橘の香りの相互作用を研究されていましてね。睡眠の導入には柑橘がいい。睡眠持続中に途覚醒しないためには黒文字がいいというところまで研究されていた。「駿河」という香りにすごく驚かれて、褒めてくださって。学会の論文にも載せてくださいました」私は静岡土産にと思ってブレンドしたんですけどね。太田ポンカン精油も黒文字精油も花吹雪さんで販売していますので、香りを試してみるといいですよ」
日本古来の香り、和精油は底知れないパワーと魅力を秘めている。日本にしか存在しない植物のもつ奥深さと可能性に惹かれるのも頷ける。農産物としての果樹は、出荷規格があるために摘果したり、規格外のものは販売できなかったりする。これらを活かすことができるのはSDGSにも合致して香りの効果以外にも期待できるのでは。
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