夜七時、ひさかたの湯は満天の星空

湯船に浸かりながら首を後ろに預けると、宇宙と自分がひとつに溶け合うような不思議な感覚に包まれる。誰の目も気にせず、ただ静寂と星光を独り占めするような貸切湯殿、ひさかたの湯。


伊豆の冬は、一年で最も空気が澄み渡る季節。都会の空を覆う濁りが一切ないこの地では、夜空がより高く、より深く、磨き上げられているよう思う。普段は見落としてしまう小さな星屑までもが、まばたきを繰り返している。


贅沢なひとり時間


スマホの通知も、誰かとの会話も、日常の慌ただしさもない、一人湯の静けさ。聞こえてくるのは、低く響く湯口の音と遠くで鳴いている野鳥の声。風に揺れて木々の葉がサワサワと擦れる音。


 


思考の波が次第に静まって、こころの中に心地よい空間が生まれてくるのがわかる。この自分だけの無の時間こそ、何よりの贅沢。


視線の先にあるのは、プライベートに設えられた小さな箱庭。半露天の開放感はそのままに、囲われた空間がもたらす安心感が、この「無」の境地をさらに深いものにしてくれる気がする。ライトアップされた庭の木々は、夜空の影となって揺れて遠景の星空を際立たせるフレームとなる。


大自然の中に放り出されるのとは違う、この「守られた静寂」が、張り詰めていた心の糸を優しく解いていく。熱い湯に浸かりながら、夜風に火照った顔を冷ます。そんな繰り返しさえ、遮る壁も急がす時計もない。


箱庭を眺めながらいただく一杯の水。乾いた喉を潤すその一口が、驚くほど体に染み渡る。内側からじんわりと温まった体は、まるで心まで柔らかく解きほぐされたよう。



「無」になれたからこそ、余計な思考はもうどこにもない。夜七時、ひさかたの湯で見つけた輝きを心に留めて。深い眠りの先には、きっと清々しい朝が待っているはず。