森のカフェ、森の宿に吹く緑の風

鶯は歌が随分上手くなった。寒桜の頃は初鳴きで、たどたどしい調子で鳴いていた。春もたけなわとなり、ずいぶん練習を重ねたのだろう。鶯の谷渡りと喩えられるように伊豆高原の森に澄んだ声だけが響いている。





森は若葉が芽吹き、こんもりした黄緑色の帽子を被った木々が挨拶でもするように枝を揺らす。森に隣接するカフェは時間がゆったりと流れていく。同じリズムで時を刻んでいるのだろうかと不思議な思いがしてくる。香りの良い珈琲と甘味で至福のひとときを過ごそう。


大きく開いた窓から臨む深い森。森のカフェではスマホを置いて目を瞑ってみて欲しい。

うさぎ谷の山野草たち


倶楽部ハウスから宿泊棟へ、宿泊棟から掛け流し風呂へ、そしてうさぎ棟へと続く小道でふと足元に目を向けると、可愛らしい山野草が楚々と咲いている。ゆっくりと時を過ごした後だからこそ小さなことに気づかされる。





今年は蝮草が小道に増えた気がする。昨年までは森の園で数本見かけるだけだった。誰か種を運んできたのか。蝮が鎌首をもたげたような姿の蝮草は、ちょっと不気味だ。花に見えるのは苞で蕾を包むように変形した葉だそうで、この苞葉の中に花は咲く。秋にはトウモロコシのような実が成り、真っ赤に熟す。毒性があり食べることはできない。




この実を食べてしまう鳥がいると聞いた。タデ食う虫も好きずきというが、蝮草を食う鳥も好きずきということか。



猛毒も辞さない怪鳥かと想いきや、スズメより少し小さいジョウビタキだそうだ。雪の降らないところで越冬する冬の鳥。



森の宿、テラスで存分に味わう新緑

森の匂いを感じながら読書もいい。鳥たちの声は心地よいBGM。イソヒヨ、コジュケイ、セグロセキレイ、ヒガラ。森の声楽家たちが競ってうた声自慢。鳥の囀りと風の音だけが聞こえてくる。



夜の献立は森の宿らしい和ハーブのあしらい


食前酒に是非味わいたい「森無幻」
自家製ミントの和製モヒートと呼ぼうか。爽やかなミントの香りと柑橘系の甘い酸味、ほのかにスパイシーな後味。森の余韻に浸りながら料理を待つ夕暮れ。



先付:嶺岡豆腐
江戸時代からの伝統料理を花吹雪独自の料理仕立てに。







八寸:静岡豚の角煮黒砂糖仕立て、伊東産真烏賊と分葱の芥子酢味噌和え、小肌の小袖寿司、鯛子とうるいの水晶寄せ
早春の息吹を伝える山菜「うるい」シャキっとした歯ごたえエグミや苦みがなく ビタミンCの含有量は和ハーブの中ではトップクラスだそう。



御造:ひらめの薄造り



煮物:蛤真薯、わらび、うど、木の芽餡掛け
春の山菜で代表的な、わらび、うど。わらびは驚くべきパワーを秘めた和ハーブ。アンチエイジングやドライアイの改善にも効果が期待できるという。うどは「独活」として漢方の生薬に利用されるくらいで疲労回復や抗酸化作用がある優秀な和ハーブ。



中猪口:自家栽培甘夏と天城山葵のソルベ
甘夏はビタミンCとクエン酸のダブル効果で美肌、美髪に効果があるそうな。



焼物:伊豆沖揚がりのアブラボウズの幽庵焼き、自家栽培つわ蕗の甘酢漬け
つわ蕗の甘酢。はじかみと思って噛んでみるとほのかな苦み。驚くほど香り高い和ハーブ。民間薬としても古くから利用され、切り傷、湿疹、打撲などの外用に、また食せば細胞の老化を防ぎ動脈硬化の予防にもよしとされている。葉が開く前の柔らかい時期に下処理して漬け込むのがポイントだそう。



御飯:筍の炊き込み、木の芽
留椀:鮟鱇の潮汁
香の物:胡瓜の黒文字漬け、長芋の麦酒漬け、汐吹昆布
旬のうちにいただきたい筍。筍に欠かせないのが山椒の若葉「木の芽」は爽やかな香りが華やかさを添えてくれる春の和ハーブ。



料理屋菓子:自家製桜餅、苺
桜葉はその独特の香りが好まれる。アーモンドやバニラのような甘い香りとアニスやフェンネルのようなスパイシーな香りも持っている。リラクゼーション効果たっぷりの和ハーブ。


それとなく添えられている季節の和ハーブは単なる飾りではなく、実はその一皿の演出の大切な役割を担っているのを感じられる。見るだけでなく少し噛んで香りや後味も楽しみたい。