土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)春近し

昨年からの巣篭もりの間、断捨離やオンラインでの新しい学び、あるいは、趣味の刺繍やパッチワークなどの大作に取り掛かるなど、時間の余裕を活かして楽しんでいる人も多いように思う。まとまった時間が取れるのもこんなときだからこそ。


企業にとっても、ほったらかしにしていたホームページのメンテナンスや棚上げだった研究課題のチャレンジ、設備の改修などは今までのような目まぐるしい流れの中では後回しになっていたこと。この巣篭もりは、それらに着手できるまたとないチャンスなのかも知れない。



カラカラに乾燥して固く凍てついた土も、しっとりとした春の雨に潤いを含む時。暖かな陽射しを感じて土の下で眠っていた草木も芽吹き始める季節がやってきたよう。長い冬も終わりが来、やがては春がくるというもの。



ひときわゆったりと過ごせるのではと、暫くぶりの常宿へ。 いつ来ても心ほぐれる優しさと、雄大な森の抱擁がここにはある。すっと自然の中に溶け込んでゆく。



いつもと変わらないそれを期待して到着した宿は、満開の早き桜の出迎えに加えて、そこここにさりげない気遣いの変化があった。 目まぐるしい時の流れに押し流されていた世界が、ピタッと止まっていた間に、より深く、より豊かにと内なる自分を高めるように。




今年は、2月4日に関東地方で春一番が吹いたと発表された。昨年に比べて18日早く、過去最も早い記録を更新した春一番なのだそう。よくまあその強い風に散ることもなく、咲いていてくれたもの。と部屋の窓から桜を愛でて一息つく。




夕食まではまだ早い。早速、湯に浸かる。


花吹雪の湯は全部で7つ。それぞれ趣が違う中で、一番人気は何と言っても黒文字の湯だと思う。宿のコンセプトアロマとも言える黒文字は和ハーブとして湯殿、客室、料理にもあしらわれている。



黒文字の湯の内湯がリニューアルして明るくなっていた。国産の明るい色のタイルに張り替えたそうだ。天窓からも外光が差し込むように変わっていて、とても気持ちがいい。今までの黒文字の湯に増してまた魅力的に変身した気がする。




掛け流しの湯は肌に染み込むようで、湯に身体を預けているうちにほっこりとほぐれていく。春一番が吹いた後は、寒さが戻ることが多く「寒の戻り」というけれど、明朝はこの暖かい静岡が氷点下になるそうだ。時間が許す限り何度も湯に浸かることにしよう。



湯船に浸かりながら花見ができる観桜の湯は鄙の湯



織部湯。タイルを張り替えて明るくなりました。



志野乃湯。こちらもタイルを張り替えました、織部とはまた違った趣。


緑深い森に可愛らしい早咲きの桜にすっかり心解き放たれて待ち遠しいのは季節の素材をふんだんにあしらったお料理。今夜はスッキリと白ワインでも合わせてみようか。 手間暇をかけられる時にこそ、素材のもつ個性を引き出す新しいチャレンジを。献立に知恵を絞るのも忘れない。



温物:先付には温かい小料理。赤カブの道明寺蒸し。椎茸の出汁がよく効いている。



八寸:春らしい素材、貝合わせはハマグリと蕗の薹の白和え



御造:伊東産の金目鯛は脂が乗った冬場が一番美味しいとされる。



煮物:駿河湾で揚がった鮟鱇の揚げ煮。淡白な白身にしっかりと餡がからんで美味。



中猪口:さっぱりとした甘みの摺り下ろし林檎酢が次の料理を一層引き立てる。




焼物:奉書に包まれた焼物は、西京味噌で仕立てた地元の甘鯛



御飯:煮穴子の炊き込み御飯と雪の下法蓮草の摺り流し。胡瓜の黒文字漬けと大根の柚香漬



料理屋菓子:自家製和三盆のわらびもち。こっくりと味わい深い黒蜜と。